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チマローザの初期宗教曲CD発売予告

2008年度の仕事のひとつに、チマローザの初期宗教曲についての楽譜校訂とCDの出版があった。
一昨日ブックレットの原稿を終え、4月中旬には早速イタリアで発売となるのでプレ・レビューを書いておく。

チマローザは1761/62年より72年まで、およそ12年近くにわたって、当時ナポリ最大(バーニーによると当時生徒数200人)=ヨーロッパ最大の音楽院サンタ・マリア・ロレート音楽院に在籍しており、その期間中少なくとも10曲の宗教曲を残している。
1765年の3声のミサが最初の作品と考えられ、その後1767年から毎年2作ほどミサ、モテ等の宗教作品を書いている計算となる。これらがどこでどのような目的で上演されたかについて記録は残っていないが、歌詞などからみて、ナポリ市内の教会の日曜日のミサ、結婚式などで演奏されたものと考えられる。

このたび録音に選んだ作品は、チマローザの音楽院時代の初期宗教作品で、すべて私が複写した自筆譜から楽譜を新たに起こし、世界復活初演となる《Coeli voces》(1767)、モテット《Domine ad adiuvandum》(1767)、Magnificat(1769)、さらに、先日赴いたジェノバで私が複写してきた1780年のコントラルトのためのモテット《Antra, ubi quae stus echo》(1780) である。演奏はフランチェスコ・クワットロッキ、オーケストラはアブルッツォ交響楽団、合唱:スコラ・カントルム・サン・シスト、チェンバロにアンドレア・コーエン。レーベルは、ボローニャのボンジヴァンニ。

《Coeli》は、合唱と、オペラ風のダ・カーポ・アリア6曲からなり、習得したばかりのさまざまなテクニックが見て取れるほか、ドミネ、マニフィカットとも、フーガを冒頭のみ用いた、”この時代”の宗教曲のスタイルで書かれていて、彼のオペラ作曲家としての足取りを明らかにするものだが、どれも意外と出来が良くて、デビュー時にはもうかなり作曲家として完成していたのだなということが分かる。

また、今回は1780年代のモテットも録音したが、というのも、1780年初頭は、《ロンドンのイタリア女》での国際的ヒット、オペラ・セリアでのデビュー、1781年にはナポリ王宮礼拝堂の無給オルガニスト、1781年から2年あたりにはヴェネツィアの音楽院オスペダレットの教師として任命されたようい、まさに社会的な発展の年であったが、同時にこの時代の音楽を後ロシア時代以降に発展的に使いまわしていたことからも、芸術的にみても発展の年であり、音楽院時代の作品と対置させることで何らかの様式の転換が見出せるのではないかと考えたためである。

しかしこの作品、実は筆写譜の形でしか現存しておらず、個人的に真作かどうかまだ測りかねている作品でもある。
スタイル的には60年代のヨンメッリのオペラ・セリア(旋律、および、6小節にわたって上昇を続け、旋律を”圧迫”するバスの書法など)、あるいはモーツァルト風である様式上の疑問だけでなく、さらにこのモテットの筆写譜を所蔵するジェノヴァのコレクションには、チマローザのものとは明らかに考えられない《困った騎士》というオペラがチマローザの名前とともに所蔵されており、このモテットももしかしたら他人の作品にチマローザという名前を書き入れただけではないかという疑問がもたれるからである。

これについては、ぜひ聴いていただいた上で、皆様自身の判断を寄せていただきたいが、これこそがチマローザのスタイルとは何かと考える上で重要なひとつのきっかけになると考えている。

以上、各曲の内容、史料についての詳細は、私がイタリア語、英語で執筆した詳細なブックレット(30or34ページ、初出の一次史料も多く引用、出典明記)を参照していただきたい。 賛否両論はあろうが、CDや録音ももはやメディアテカとして将来的にひとつの学術資料になると考え、詳しいブックレットをつけることとしている。特に日本でCDノートは、評論家が商売で書いている文章だという認識が一般にあり --実際多くの場合でそうなのだがーーこの傾向に個人的に反対しているのである。またそれ以上に、誰にも読まれない(専門家しかよまない)地方の紀要に書くより、世界各地に販路を持つCD=音源とともに、広くその資料とその価値を提示したほうが何倍も意味があるというものである。

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クラシックCDの出版事情は前々から厳しいが、レコード会社から音楽家に取り分や謝礼が払われるということはもう「一部の売れ筋の曲を演奏する売れっ子アーティスト」に限られて久しく、録音したいと思う人物が、自分ですべて金の算段をつけなくてはもはや何の面白い曲の出版も可能にならないのが現状である。

今回のプロジェクトは、私と指揮者にとってのコラボCD3枚目ということもあり、種々の銀行、アブルッツォ州からの出版助成を得ているが、2万ユーロの経費全額は当然まかなえず、指揮者のクアットロッキ、および、合唱団、そして私がそれぞれ個人の自腹でその赤字を補填している。今回私の執筆料はもちろんゼロ、さらに2000ユーロ分の買取として全体のプロダクションに出資することでようやく出版の運びとなったので、協賛を受けた日本イタリア古楽協会以外の方にも、興味のある方には是非私から買取をしてほしいと思っている。名刺代わりに配りきってしまう前に、必要な方はご一報を。

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